一般社団法人 軽金属溶接協会(JLWA)は、アルミニウムおよびその合金の溶接技術向上を目的とし、JIS Z 3811規格に基づく「アルミニウム溶接技能者評価試験」を実施しています。
アルミニウム合金の溶接は、鉄やステンレスに比べて技術的に難しく、高度なスキルが求められます。そのため、アルミニウム溶接の技術力を証明するための資格が複数存在します。
主に以下の資格があります:
- JIS溶接技能者評価試験(JIS Z 3811)
- 日本溶接協会(JWES)主催のアルミニウム溶接技能者資格
- 民間企業・団体が実施するアルミ溶接関連の資格
■主催
(社)軽金属溶接構造協会
目次
受験資格と難易度
受験資格
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基本級
満15歳以上で、1か月以上のアルミニウム溶接技能を習得した者。 -
専門級:
満15歳以上で、3か月以上のアルミニウム溶接技能を習得し、該当する基本級の資格を所有している者。
難易度
約80%とされており、比較的高い合格率です。
試験内容
学科試験
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- 溶接材料の概要: アルミニウムおよびその合金の特性、用途、選定基準など。
- 溶接方法: TIG溶接(タングステン・イナート・ガス溶接)、MIG溶接(メタル・イナート・ガス溶接)の原理、手順、機器の取り扱い。
- 溶接部の性質: 溶接後の金属組織の変化、機械的性質、耐食性など。
- 安全対策: 溶接作業における安全衛生管理、保護具の使用方法、有害ガスの対策など。
実技試験
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- 溶接作業: 指定されたアルミニウム材料を用いて、薄板から厚板、パイプの突合せ溶接などを実施。
- 検査項目:
- 外観検査: 溶接ビードの形状、欠陥の有無(割れ、気孔、溶け落ちなど)を評価。
- 曲げ試験: 溶接部の強度と靭性を確認するための曲げ試験を実施。
- 非破壊検査: 必要に応じて、X線検査や超音波検査などの非破壊検査を行い、内部欠陥の有無を確認。
試験対策
学科試験の対策
学科試験では、アルミニウムの特性や溶接方法、品質管理、安全対策について問われます。以下の方法で勉強すると効果的です。
(1) 試験範囲の把握
試験範囲は主に以下の内容をカバーします。
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アルミニウムの基礎知識
- アルミニウムとその合金の種類と特徴
- 溶接時の特性(熱伝導率が高い、酸化皮膜ができやすい など)
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溶接法の理解
- TIG溶接(Tungsten Inert Gas)
- 溶接機の構造、電極の種類、シールドガスの選定
- MIG溶接(Metal Inert Gas)
- 溶接ワイヤーの種類、スプールの設定、ガス流量調整
- 溶接条件の選定方法(電流・電圧・トーチ角度・移動速度)
- TIG溶接(Tungsten Inert Gas)
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溶接欠陥と対策
- ピット(溶け込み不足)、ブローホール(気孔)、クラック(ひび割れ)の発生原因と防止策
- 不適切な溶接パラメータの影響
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安全管理
- 高温作業時の保護具の選択
- 有害ガス(アルゴン、ヘリウム)の特性と換気対策
- 火災・感電防止策
(2) 効果的な学習法
公式テキスト・JIS規格の確認
- JIS Z 3811(アルミニウム溶接技能者評価試験の基準)を確認する
- 日本溶接協会(JWES)や軽金属溶接協会(JLWA)のテキストを活用する
過去問題を解く
- 試験機関が公開している過去問題を解き、出題傾向を把握する
- 問題集や模擬試験を活用し、苦手分野を特定して重点的に勉強する
オンライン講習を活用
- 溶接関連のeラーニングを活用して効率よく学習する
- 溶接専門学校や職業訓練校の講習会に参加する
実技試験の対策
実技試験では、アルミニウム溶接の技能が評価されます。試験官が外観検査・曲げ試験・X線透過試験などを実施し、適切な溶接ができているかを判断します。
(1) 試験での主な評価ポイント
ビードの外観
- 均一なビード幅
- 適切な溶け込み深さ
- ピット・ブローホールがないこと
溶接姿勢
- 指定された姿勢で安定した溶接ができること(下向き・立向き・水平など)
曲げ試験に耐える品質
- 試験後、クラックや溶接欠陥が発生しないようにする
(2) 事前練習のポイント
溶接条件を正しく設定
- 溶接電流・電圧・ワイヤ送給速度・ガス流量の調整
- 溶接時のトーチ角度と移動速度の最適化
安定した姿勢で溶接
- 試験では複数の姿勢で溶接を行うため、事前に全姿勢の練習を行う
- 立向きや水平の姿勢で、一定のビードを形成する練習を繰り返す
練習用の溶接試験片を準備
- 試験と同じ板厚・材質の試験片を使って練習する
- 練習後、自分の溶接ビードを外観検査し、欠陥がないか確認する
試験前に溶接技術講習を受ける
- 軽金属溶接協会や職業訓練校では、試験対策講習を実施している
- 実技試験のポイントを指導してもらうことで合格率が向上する
本番での注意点
試験前の準備
- 試験当日は、溶接機の設定をしっかり確認し、事前チェックを怠らない
- 溶接用の防具(保護メガネ、手袋、エプロンなど)を忘れずに持参
冷静に作業を進める
- 緊張して手元がブレないように、試験前に深呼吸してリラックスする
- 一定の移動速度を意識し、急がず正確な溶接を行う
自己チェックを怠らない
- 作業後に自分で外観を確認し、目視できる欠陥がないかをチェック
取得後に出来ること
試験に合格すると、溶接技術者としてのスキルを証明でき、さまざまな業界での活躍の幅が広がります。以下、資格取得後に可能になることを詳しく説明します。
1. 溶接技術者としての就職・転職が有利になる
アルミニウム溶接は、鉄やステンレスに比べて高度な技術が必要なため、資格を持っていると高く評価されます。
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就職・転職に有利
- 造船・航空機・自動車・建設業界 などで即戦力として採用されやすい
- アルミ溶接の需要が高いため、特定の企業で資格保有者を優遇するケースがある
- 資格取得者は 技能手当 や 資格手当 が支給される場合がある
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海外での就職の可能性
- 国際規格(ISO 9606-2)と関連があり、海外の製造業や建設業でも認知されている
- 特に アメリカ・ヨーロッパ・アジアの自動車・航空機業界 で需要がある
2. 高度なアルミニウム溶接作業を担当できる
資格取得者は、 高難度のアルミニウム溶接作業 を任されるようになります。
- 航空機や自動車の重要部品の溶接
- 航空機・新幹線・電気自動車(EV)など、軽量化が求められる製品の溶接作業
- 高精度のアルミ構造物の溶接
- 建築・造船・橋梁工事などで アルミニウム製の骨組みやパネルの溶接 を担当
- 特殊な溶接工程の実施
- 極薄材の溶接(溶接の歪みが少なく、強度を保つ技術が必要)
- 高圧容器の溶接(溶接欠陥が致命的になる製品)
3. 溶接指導者・管理職へのキャリアアップ
アルミニウム溶接資格を持っていると、 溶接指導者 や 溶接管理職 として活躍できる可能性が広がります。
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溶接技能指導員としての活動
- 若手技術者の育成(企業の研修、専門学校・職業訓練校での指導)
- 溶接資格取得のための講師やトレーナーとして活躍
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管理職・品質管理業務
- 溶接作業の品質チェック(非破壊検査・強度試験)
- 製造ラインの品質管理者 として、溶接工程の最適化や改善活動に携わる
- 建築・製造業での溶接施工管理技士 へのステップアップ
4. フリーランス・独立開業が可能
資格を取得すると、 独立してアルミ溶接の仕事を請け負う ことも可能です。
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フリーランス溶接工
- 高い技術を持つ溶接工は、工場や建設現場で 期間契約(派遣・業務委託) で高単価の仕事を請け負うことができる
- 時給3,000円以上 の高収入案件も存在
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自営業・溶接工場の経営
- アルミ部品の製作・修理工場を開業
- カスタムパーツ(バイク・自動車)の溶接加工業務
- 金属加工会社との協力事業 などを展開
5. 他の上位資格の取得が可能
アルミニウム溶接技能者評価試験に合格すると、さらに上位資格を取得するための基盤ができます。
(1) 溶接管理・検査に関する資格
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溶接管理技術者(JWES WES8103)
- 溶接工程の監督や品質管理を行う資格
- 企業の溶接管理者としての昇進に有利
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非破壊検査技術者(PT・UT・RTなど)
- X線検査(RT) や 超音波検査(UT) などの資格を取得し、溶接部の検査・評価を行う業務へ
(2) 建築・製造業でのキャリアアップ
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溶接施工管理技士(国土交通省認定)
- 建築現場や工場で溶接工事の管理者になるための資格
- 施工計画の作成・品質管理・安全管理を担当
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国際溶接技術者資格(IWE・IWT)
- 国際的に認められる溶接技術資格
- 海外のプロジェクトやグローバル企業での仕事に有利
工業系資格一覧
技術士
ガス溶接技能者
公害防止管理者
ボイラー技士
ボイラー整備士
ボイラー溶接士
ガス溶接作業主任者
ボイラー取扱技能講習
溶接作業指導者
溶接管理技術者
アルミニウム溶接技能者評価試験