妊娠・出産・産後のケアを専門とする国家資格を持つ医療職で看護師資格を取得した後に、さらに専門的な教育を受けて資格を取得します。助産行為だけでなく、女性の健康支援や育児指導も行います。
受験資格と難易度
1. 受験資格
助産師国家試験を受験するには、以下の2つの条件を満たす必要がある。
① 看護師資格を取得していること(必須)
助産師になるためには、まず看護師国家試験に合格し、看護師資格を取得する必要がある。
- 看護師養成課程を修了する必要がある。
- 4年制大学(看護学部)
- 3年制の専門学校・短大(看護学科)
- 看護師資格を取得済みの人も助産師養成課程に進学可能。
② 助産師養成課程を修了すること(1年以上)
看護師資格を取得した後、助産師養成の専門教育を受ける必要がある。
以下のいずれかのコースを修了することで受験資格を得る。
- 助産学専攻科(1年制)(看護師資格を持つ人向けの専門課程)
- 大学の助産学専攻(4年制看護学部の一部)(卒業と同時に受験資格取得)
いずれも、100件以上の分娩介助を経験する臨床実習が必須となる。
2. 難易度(合格率や試験内容)
① 合格率
助産師国家試験の合格率は90%以上と比較的高い。
- 令和5年度(2023年):96.5%(受験者1,553名/合格者1,498名)
- 令和4年度(2022年):98.5%
- 令和3年度(2021年):98.8%
合格率が高い理由は、受験資格を得るまでに専門的な教育・実習を受けるため、一定の実力が備わっている人が受験するからである。
試験内容
1. 試験概要
- 試験形式:筆記試験(マークシート方式・五肢択一)
- 問題数:全90問
- 試験時間:2時間30分
- 試験日:毎年2月(看護師国家試験と同じ日程で実施)
- 合格基準:
- 総得点の60%以上が合格ライン
- 必修問題は80%以上の正答が必須(ここで基準を満たさないと不合格)
2. 出題範囲と詳しい内容
助産師試験は、助産に関する専門知識を問う問題が中心。以下のような分野から出題される。
① 基礎医学(人体の構造と機能・病態生理)
助産師として必要な医学の基礎知識が問われる。
- 解剖学(女性の生殖器の構造、胎盤・胎児の発育)
- 生理学(妊娠・分娩・産褥のホルモン変化、乳汁分泌のメカニズム)
- 病理学(妊娠合併症、異常分娩、胎児の発育異常)
- 薬理学(妊婦・産婦に使用される薬の作用、副作用)
② 助産ケア(妊娠・出産・産後の管理、新生児ケア)
助産師が実際に行うケアに関する問題が多く出題される。
- 妊婦健康診査(妊娠の経過観察、胎児発育の評価)
- 正常分娩の経過(分娩第1~4期の進行、胎児娩出のメカニズム)
- 分娩介助(胎児娩出の手技、会陰保護、胎盤娩出の管理)
- 産後ケア(母体の回復、新生児の健康観察、母乳育児の支援)
- 異常分娩の対応(微弱陣痛、分娩停止、胎児機能不全)
- 帝王切開・鉗子分娩・吸引分娩の適応とリスク管理
③ 女性の健康支援(思春期・更年期のケア)
助産師は「女性の一生を通じた健康管理」を行う役割も担うため、以下の内容が問われる。
- 思春期の性教育(初経・月経の指導、避妊法)
- 更年期・閉経後の健康管理(ホルモン補充療法、骨粗しょう症予防)
- 性感染症(クラミジア、HIV、梅毒などの症状と治療)
- 婦人科疾患(子宮筋腫、子宮内膜症など)
④ 助産診断・技術(異常時の対応)
助産師として、正常な分娩だけでなく異常時の対応も問われる。
- 分娩監視(胎児心拍モニタリング、胎児機能不全の評価)
- ハイリスク妊娠(妊娠高血圧症候群、糖尿病合併妊娠など)
- 産科救急(大量出血、弛緩出血、羊水塞栓症)
- 新生児蘇生(仮死状態の新生児への初期対応、酸素投与)
⑤ 母子保健・公衆衛生(地域助産活動)
地域での母子支援や助産師の社会的役割について出題される。
- 母子保健法(妊娠届・母子健康手帳の交付、健診の仕組み)
- 産後ケア事業(自治体による母子支援制度)
- 乳幼児健診(成長・発達の評価、育児支援)
- 家庭訪問・育児相談(助産師の訪問支援)
⑥ 関係法規(助産師の法律・倫理)
助産師としての業務範囲や法律上の義務が問われる。
- 助産師法(助産師が単独でできる業務、医師の指示が必要な行為)
- 医療法(医療機関の管理、医療事故対応)
- 個人情報保護法(患者のプライバシー保護)
- 母体保護法(人工妊娠中絶、胎児の生命保護)
試験対策
1. 効果的な勉強法
① 試験範囲を把握する
助産師試験は大きく6つの分野に分かれます。
- 基礎医学(解剖・生理・病理・薬理)
- 助産ケア(妊娠・出産・産後の管理、新生児ケア)
- 女性の健康支援(思春期・更年期の対応)
- 助産診断・技術(異常時の対応)
- 母子保健・公衆衛生(地域助産活動)
- 関係法規(助産師法・母子保健法 など)
この中でも特に重要なのは、助産ケア・助産診断・関係法規です。
② 参考書・問題集を活用する
おすすめの勉強法
- 助産師国家試験の過去問を3~5年分解く(出題傾向を把握)
- 参考書を1冊選び、基礎から復習する(助産師用の国試対策本がおすすめ)
- 問題集で演習し、弱点を補強する(助産ケア・異常分娩・法規を重点的に)
③ 過去問・模試を活用する
過去問演習のコツ
- 1回目:とりあえず解いてみる(実力チェック)
- 2回目:解説をしっかり読みながら解き直す
- 3回目:間違えた問題だけ解き直し、確実に理解する
必修問題は落とせないので、必ず80%以上の正答率を目指す。
④ 分野別の対策方法
基礎医学(解剖・生理・病理・薬理)
- 女性の生殖器の構造・妊娠の生理的変化を重点的に復習
- ホルモン変化(エストロゲン・プロゲステロン・オキシトシン)を覚える
- 妊娠合併症・胎児異常の病態を整理する
助産ケア(妊娠・出産・産後・新生児)
- 分娩の4期(第1〜4期)の経過と助産師の役割を理解する
- 母乳育児のサポート(授乳姿勢・乳房トラブルの対応)を覚える
- 新生児の評価(アプガースコア・黄疸・呼吸評価)を押さえる
助産診断・異常分娩の対応
- 胎児機能不全の兆候(胎児心拍モニタリングの判読)を確認する
- 分娩遷延・分娩停止・吸引分娩・鉗子分娩の適応を学ぶ
- 産科救急(大量出血・羊水塞栓症・子癇発作)の対応を復習する
母子保健・公衆衛生
- 母子保健法・産後ケア事業の内容を整理する
- 乳幼児健診のスケジュール・育児相談のポイントを学ぶ
関係法規(助産師法・医療法など)
- 助産師ができる医療行為・できない医療行為を整理する
- 個人情報保護法・母体保護法の内容を確認する
- 「医師の指示が必要な処置」と「助産師が単独でできる処置」を区別する
2. 試験直前のポイント
- 必修問題の対策を徹底する(確実に80%以上取れるように)
- 模試を活用し、試験の形式に慣れる
- 過去問の解き直しを行い、苦手分野を重点的に復習する
- 法規や数値(アプガースコア・胎児心拍数の基準など)を暗記する
- 焦らず、基本的な知識を確実に押さえる
取得後に出来ること
1. 助産師としてできること(業務内容)
① 分娩の介助(医師の指示なしで可能)
- 正常な分娩の介助(助産所や病院での出産サポート)
- 出産時の母体と胎児の管理(胎児心拍モニタリング、陣痛の経過観察)
- 会陰切開の必要判断と縫合処置(助産師外来がある場合)
- 分娩後の母体ケア(出血管理・子宮収縮確認など)
※異常分娩(帝王切開が必要なケースなど)は医師の対応が必要。
② 妊娠・産後の母子ケア
- 妊婦健診(助産師外来)
- 妊娠経過の観察、胎児の成長チェック
- 妊娠中の生活指導(食事・運動・ストレス管理)
- 産後ケア
- 産後の体調管理(悪露・乳房のケア・会陰部の回復観察)
- 母乳育児のサポート(授乳指導・乳房トラブルの対応)
- 育児指導(抱っこの仕方、赤ちゃんの発育相談)
③ 新生児ケア
- 出生直後の評価(アプガースコアの測定)
- 赤ちゃんの健康管理(黄疸チェック・哺乳観察・体重測定)
- 新生児蘇生(仮死状態の赤ちゃんへの初期対応)
④ 女性の健康支援
- 思春期教育(性教育、月経指導、避妊相談)
- 更年期ケア(ホルモンバランスの管理、骨粗しょう症予防)
- 不妊相談・妊活支援(排卵周期の把握・ライフプラン相談)
⑤ 母子保健・地域助産活動
- 産後ケア事業(自治体と連携し、産後の母親をサポート)
- 乳幼児健診(赤ちゃんの成長チェック、育児相談)
- 訪問助産(出産後の母子の家庭訪問による支援)
2. 活躍できる職場・分野
① 病院・クリニック(産婦人科・総合病院)
- 分娩介助・妊婦健診・産後ケアを担当
- 助産師外来を設置している病院では、妊婦健診を助産師が担当することも可能
- NICU(新生児集中治療室)での新生児ケア
② 助産院(助産師が主体の施設)
- 医師のいない助産院では、正常分娩のみを取り扱う
- 妊婦に寄り添った自然分娩をサポートする施設も多い
- 産後ケアにも力を入れている
③ 自治体・保健センター(母子保健活動)
- 母子手帳の交付・妊娠相談・乳幼児健診
- 育児相談・母乳外来・思春期教育
- ハイリスク妊婦のフォローアップ
④ 企業・学校・NPO(健康教育・福祉活動)
- 性教育や女性の健康管理に関する講義・講演活動
- 企業の健康管理部門(女性社員向けの健康相談)
- 国際支援(発展途上国での助産活動・母子保健支援)
3. 助産師のキャリアアップ
① さらなる専門資格の取得
- 国際認定ラクテーション・コンサルタント(IBCLC)(母乳育児の専門資格)
- 新生児集中ケア認定看護師(NICUで活躍)
- 周産期ケアの専門助産師(ハイリスク妊婦の対応)
② 助産院の開業
- 一定の経験を積めば助産院を開設できる(※条件あり)
- 自宅出産を希望する妊婦のサポートも可能
③ 国際助産活動(NGO・JICAなど)
- 発展途上国での母子保健支援
- 妊産婦死亡率の高い国での教育・啓発活動